毎日新聞・生活困窮者 包括的対策で孤立救え
2012年05月14日
社説:生活困窮者 包括的対策で孤立救え
毎日新聞 2012年05月14日
生活保護の受給者が200万人を超え、費用も4兆円に迫ろうとしている。生活困窮に加えて社会的孤立が増えているのが最近の特徴だ。「家族以外と交流がない」人が日本は15%で経済協力開発機構加盟国の中で最も多い。オランダ(2%)、米国(3%)と比べても際立っている。国と地方、官と民の総力を挙げた包括的な取り組みが必要だ。
生活保護率の高い大阪市は不正受給に厳しく対処し、自民党は給付水準を10%下げる案を公表した。たしかに生活保護費の約半分を占める医療扶助の適正化のために電子レセプトや複数の医療機関でチェックするセカンドオピニオンの徹底などが必要だろう。ただ、わが国の受給率は諸外国に比べて低く、むしろ必要な人が受給できていないという現実の方が問題だ。保護費抑制のために入り口を厳しく狭めるだけでは本質的な解決にはならないだろう。
生活保護はいったん受給者になるとなかなか抜け出せない。生活保護を受けながら働き、一定額の預貯金をすることを認めて受給者の就労意欲を高める案も検討されている。それだけでなく、雇用や社会参加の機会を増やし、きめ細かい相談支援で雇用へつなげることが肝要だ。福祉事務所のケースワーカーたちは受給者の急増に手が回らず疲弊し切っている。民生委員や各地の社会福祉協議会をもっと活用してはどうか。ホームレス支援や生活困窮者の救済に実績のあるNPOにも協力を求め、民間ならではのノウハウや人的資源を生かすべきである。
生活保護率は大阪や北海道が突出するなど地域によって大きなばらつきがある。市町村の権限を強めて独自に積極的な対策を取れるようにすることも必要だ。都市部では単身の生活困窮者の住居の確保が急務となっている。一方で空き家や集合住宅の空室は増えており、居住政策の改善の余地は大きい。また、多重債務に陥っている人のため、福岡県の生活協同組合などは「生活再生相談」や家計管理など生活指導を組み込んだ独自の融資事業で成果を上げている。貸付制度を使って居住の確保を進めることができれば困窮者の救済は広がるだろう。
生活困窮に陥らない事前の対策も忘れてはならない。生活保護の家庭の子どもは進学率が低く中退者も多い。学習支援や学費の援助などを充実させ、貧困の連鎖を断ち切らないといけない。最近は発達障害の学生の就職難も問題になっている。学習能力は高いが対人関係が苦手なため面接試験で軒並み落ちてしまうケースが多い。ひきこもり、ニートなどの対策と併せ、省庁間の壁や官民の垣根を越えた取り組みが今こそ求められる。
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常識的な発言ですが、これにすら保護行政は到底届きそうにない。
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生活保護 申請者に誓約書強要「違法」
「心を圧迫」京都府が特別監査
京都府宇治市の生活支援課のケースワーカーが生活保護の申請者に対して法的根拠のない誓約書を強要していた問題が広がりをみせている。
生活保護を受給している世帯からも誓約書を取っていたことが判明。市は「組織的な関与はない」としているが、誓約書を取っていたケースワーカーは計19人に上り、府は市に対して特別監査に乗り出した。
「異性と同居しない」「生活保護費削減のため、(男性側に)子どもの養育費を請求することを誓う」。生活保護の申請に訪れた女性が3月1日、市役所の相談室で男性ケースワーカーから示された〈誓約書〉。65歳未満や母子世帯などに分けて、数多い制限が書き込まれ、職員が守られていないと判断した場合には保護を廃止し、異議は申し立てないなどとされていた。
女性は約4時間にわたって説明を受けた後、署名・押印を求められた。後日、女性が別の職員に話したことから、問題が発覚した。
そこで、市は全ケースワーカー(24人)に聞き取り調査を実施。新たに2人が申請者に対して、別の誓約書を取っていたことがわかった。3人は「不正受給を防ぎたかった」「制度について知ってもらいたかった」と理由を説明したという。
生活保護の申請権を侵害している恐れがあると判断した市は、誓約書を取った6世帯を訪問するなどして誓約書に効力のないことを告げ、「不適切だった」と謝罪。市民団体などの抗議に対し、市は「誓約書を求めた職員が誤った認識を持ち、管理も不十分だった」として、職員個人の問題だけではなく、市の指導不足もあったとの認識を示した。
■ □
しかし、誓約書問題は申請者だけにとどまらなかった。市内の生活保護の受給1822世帯(3月21日現在)全件を調べた結果、38世帯から39枚の誓約書を提出させたことも明らかになった。収入の申告や車の使用禁止などを求めており、市は「個別具体的な援助の中で、自立を助長するためだった」とするが、「もう2度と引っ越しはしない」などとするものもあった。
ある自治体の担当者は「生活保護制度の説明について『言った』『言わない』となるのは誰しも避けたいこと。そうしたことを防ぐために誓約書という形を取ったのでは」と推し量る。
19人ものケースワーカーが誓約書を取っていた事実を府は重く受け止めており、担当者は「受給者への誓約書については直ちに違法とは言えないが、保護費を止められるのではないかと心理的な圧迫を加えるものは不適当」とし、中身を詳しく精査している。
□ ■
長引く景気の低迷などにより、市では2006年度1504世帯だった受給世帯が09年には1697世帯、11年度は1826世帯と、全国同様に増加し、財政上大きな負担になっているのは事実だ。生活保護法では、自治体は生活保護受給者に対して必要な指示、指導ができ、受給者が従わない場合は保護を廃止・停止できるとしている。
しかし、吉永純・花園大教授(公的扶助論)は「申請者にまで誓約書を書かせる権限は行政にはなく、明らかに違法」と指摘。「1枚の誓約書だけで自立を促すほど、受給者の抱える生活問題は甘くはない。受給者の状況を分析し、対等な立場で自立への展望を共に認識し、意欲を引き出す支援が、ケースワーカーには求められている」と話す。
市は職員の研修や管理体制の見直しなどに乗り出した。再発防止のためには、より一層の取り組みが求められる。(倉岡明菜)
(2012年5月14日 読売新聞)
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弱い者いじめの違法な現場は、何も京都だけではない。
公平で人権の尊重される「生活保護行政」の為には、第三者の監視・監査が必要です。
毎日新聞 2012年05月14日
生活保護の受給者が200万人を超え、費用も4兆円に迫ろうとしている。生活困窮に加えて社会的孤立が増えているのが最近の特徴だ。「家族以外と交流がない」人が日本は15%で経済協力開発機構加盟国の中で最も多い。オランダ(2%)、米国(3%)と比べても際立っている。国と地方、官と民の総力を挙げた包括的な取り組みが必要だ。
生活保護率の高い大阪市は不正受給に厳しく対処し、自民党は給付水準を10%下げる案を公表した。たしかに生活保護費の約半分を占める医療扶助の適正化のために電子レセプトや複数の医療機関でチェックするセカンドオピニオンの徹底などが必要だろう。ただ、わが国の受給率は諸外国に比べて低く、むしろ必要な人が受給できていないという現実の方が問題だ。保護費抑制のために入り口を厳しく狭めるだけでは本質的な解決にはならないだろう。
生活保護はいったん受給者になるとなかなか抜け出せない。生活保護を受けながら働き、一定額の預貯金をすることを認めて受給者の就労意欲を高める案も検討されている。それだけでなく、雇用や社会参加の機会を増やし、きめ細かい相談支援で雇用へつなげることが肝要だ。福祉事務所のケースワーカーたちは受給者の急増に手が回らず疲弊し切っている。民生委員や各地の社会福祉協議会をもっと活用してはどうか。ホームレス支援や生活困窮者の救済に実績のあるNPOにも協力を求め、民間ならではのノウハウや人的資源を生かすべきである。
生活保護率は大阪や北海道が突出するなど地域によって大きなばらつきがある。市町村の権限を強めて独自に積極的な対策を取れるようにすることも必要だ。都市部では単身の生活困窮者の住居の確保が急務となっている。一方で空き家や集合住宅の空室は増えており、居住政策の改善の余地は大きい。また、多重債務に陥っている人のため、福岡県の生活協同組合などは「生活再生相談」や家計管理など生活指導を組み込んだ独自の融資事業で成果を上げている。貸付制度を使って居住の確保を進めることができれば困窮者の救済は広がるだろう。
生活困窮に陥らない事前の対策も忘れてはならない。生活保護の家庭の子どもは進学率が低く中退者も多い。学習支援や学費の援助などを充実させ、貧困の連鎖を断ち切らないといけない。最近は発達障害の学生の就職難も問題になっている。学習能力は高いが対人関係が苦手なため面接試験で軒並み落ちてしまうケースが多い。ひきこもり、ニートなどの対策と併せ、省庁間の壁や官民の垣根を越えた取り組みが今こそ求められる。
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常識的な発言ですが、これにすら保護行政は到底届きそうにない。
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生活保護 申請者に誓約書強要「違法」
「心を圧迫」京都府が特別監査
京都府宇治市の生活支援課のケースワーカーが生活保護の申請者に対して法的根拠のない誓約書を強要していた問題が広がりをみせている。
生活保護を受給している世帯からも誓約書を取っていたことが判明。市は「組織的な関与はない」としているが、誓約書を取っていたケースワーカーは計19人に上り、府は市に対して特別監査に乗り出した。
「異性と同居しない」「生活保護費削減のため、(男性側に)子どもの養育費を請求することを誓う」。生活保護の申請に訪れた女性が3月1日、市役所の相談室で男性ケースワーカーから示された〈誓約書〉。65歳未満や母子世帯などに分けて、数多い制限が書き込まれ、職員が守られていないと判断した場合には保護を廃止し、異議は申し立てないなどとされていた。
女性は約4時間にわたって説明を受けた後、署名・押印を求められた。後日、女性が別の職員に話したことから、問題が発覚した。
そこで、市は全ケースワーカー(24人)に聞き取り調査を実施。新たに2人が申請者に対して、別の誓約書を取っていたことがわかった。3人は「不正受給を防ぎたかった」「制度について知ってもらいたかった」と理由を説明したという。
生活保護の申請権を侵害している恐れがあると判断した市は、誓約書を取った6世帯を訪問するなどして誓約書に効力のないことを告げ、「不適切だった」と謝罪。市民団体などの抗議に対し、市は「誓約書を求めた職員が誤った認識を持ち、管理も不十分だった」として、職員個人の問題だけではなく、市の指導不足もあったとの認識を示した。
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しかし、誓約書問題は申請者だけにとどまらなかった。市内の生活保護の受給1822世帯(3月21日現在)全件を調べた結果、38世帯から39枚の誓約書を提出させたことも明らかになった。収入の申告や車の使用禁止などを求めており、市は「個別具体的な援助の中で、自立を助長するためだった」とするが、「もう2度と引っ越しはしない」などとするものもあった。
ある自治体の担当者は「生活保護制度の説明について『言った』『言わない』となるのは誰しも避けたいこと。そうしたことを防ぐために誓約書という形を取ったのでは」と推し量る。
19人ものケースワーカーが誓約書を取っていた事実を府は重く受け止めており、担当者は「受給者への誓約書については直ちに違法とは言えないが、保護費を止められるのではないかと心理的な圧迫を加えるものは不適当」とし、中身を詳しく精査している。
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長引く景気の低迷などにより、市では2006年度1504世帯だった受給世帯が09年には1697世帯、11年度は1826世帯と、全国同様に増加し、財政上大きな負担になっているのは事実だ。生活保護法では、自治体は生活保護受給者に対して必要な指示、指導ができ、受給者が従わない場合は保護を廃止・停止できるとしている。
しかし、吉永純・花園大教授(公的扶助論)は「申請者にまで誓約書を書かせる権限は行政にはなく、明らかに違法」と指摘。「1枚の誓約書だけで自立を促すほど、受給者の抱える生活問題は甘くはない。受給者の状況を分析し、対等な立場で自立への展望を共に認識し、意欲を引き出す支援が、ケースワーカーには求められている」と話す。
市は職員の研修や管理体制の見直しなどに乗り出した。再発防止のためには、より一層の取り組みが求められる。(倉岡明菜)
(2012年5月14日 読売新聞)
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弱い者いじめの違法な現場は、何も京都だけではない。
公平で人権の尊重される「生活保護行政」の為には、第三者の監視・監査が必要です。
Posted by 谷本 at 12:51│Comments(0)
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